日本不育症学会設立のご挨拶

杉浦真弓名古屋市立大学大学院医学研究科 産科婦人科教授・不育症研究センター長 杉浦 真弓 と申します。

不育症とは、流産、死産を繰り返して児が得られない病態と定義されています(日本産科婦人科学会用語集2018)。欧州生殖医学会 (ESHRE)と米国生殖医学会American Society of Reproductive Medicine (ASRM)では、RPLはtwo or more pregnancy lossと定義されています。習慣流産Recurrent Miscarriageは、1990年のLancetに3回以上連続する流産と定義されて以来定着しています。しかし、日本では、不育症の定義でさえ、間違った情報が流れ、混乱しています。さらに、原因不明の場合でも平均的な年齢であれば薬剤投与をしなくても一定の確率で出産できますが、研究的な治療が、説明・同意の不十分なまま自費診療として実施されています。

不育症研究については、日本生殖医学会、日本生殖免疫学会などで成果発表されてきましたが、不育症の4大原因は抗リン脂質抗体、夫婦染色体構造異常、子宮奇形、胎児染色体数的異常であり、免疫のみならず、遺伝、内分泌、凝固線溶系、手術手技と多岐にわたる知識、技術を要する疾患です。妊娠経験者の5%もの高頻度の患者さんが存在しながら専門学会が存在しないままでした。

2019年3月30日にはJPタワー名古屋において第1回日本不育症学会各術集会を開催いたしました。特別講演にはESHRE Recurrent Pregnancy Loss ガイドライン作成のとりまとめを行ったMariëtte Goddijn教授をお招きして、Key messages of the ESHRE Guideline on Recurrent Pregnancy Lossという講演をしていただきました。一般演題でも活発な議論をしていただきました。世界標準の不育症を学んでいただきました。

日本不育症学会を医師のみならず、看護師、心理士、遺伝カウンセラー、胚培養士のみなさんにも学んでいただける場にしたいと思います。2020年度には認定制度を設立し、認定医、認定看護師、不育症カウンセラーを認定することで全国の患者さんが診療を受けやすい体制を整えます。日本不育症学会を通じて、標準的不育症とは何かを学んでいただき、研究を推進し、患者さんに貢献できることを目指したいと思います。

日本不育症学会理事長
杉浦 真弓